バイオベンチャー創業記 浦東の衝撃

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浦東の衝撃

  • 2010/12/08(水) 00:00:01

我々が思っているイノベーションの80%は衣の部分だったかもしれない。

これは私の10年で最大のショックといっていいことの話だ。

きっかけは些細なことで
とあるVCの担当者が中国でのカンファレンス参加を勧めてくれたからだ。
実際に勧めてもらったカンファレンスは
申し込みの期限に間に合わず、別のカンファレンスで上海に行った。

丁度時を同じくして
複数のアメリカの同業ベンチャーで我々同様にバーチャルモデルをとているところから
中国CRO, CMOを使っているという話を聞き
これからは中国にも目に向けなければならないと思っていたところであった。

何故、もっと早く来なかったのかと思った。
世の中はトンデモなく変わっている。
そしてバイオの世界は中国のせいで地殻変動が起こっていた。

浦東(浦东:Pu Dong)に降り立つ飛行機から見たときは
どえらく汚い空と海だと思った。
最初は空が曇っているせいかとおもったが
すぐに汚れた大気のせいだときがついた。
あれを吸って3日間生きるのかと思うと
憂鬱ですらあった。

しかしその憂鬱さを吹っ飛ばすような衝撃がすぐにくる。

最初の一歩はリニアモーターカーだ。
ご存じの方もいると思うが
現在世界で唯一営業運行しているのは中国・上海だけだ。
日本が科学の技術の粋を集めて試験を繰り返し、
ルートに長野を入れるだのなんだのとくだらない議論をしている間に
中国は営業を開始しているわけだ。

動画:MagLev

最高時速431km/hでまずは軽いジャブを受けた。

お次はタクシーだ。
多分上海のタクシードライバーはファミコンゲームのように車を操る。
命知らずに横断をする歩行者や急に車線変更や路上停止をする車を避けて
しかもアグレッシブに最高速度から交差点での急減速を繰り返す。
駅からホテルまでの10分間で10回ほど死神の呼ぶ声が聞こえた。
ついでにそれだけのスリリングなエンターテイメントが
わずかに300円だったことを付け加えておこう。

さて、旅行に行ったわけではないので肝心なバイオの話だ。

我々のような日本の会社が
現在の中国においてどのようなオポチュニティがあるかというと、
はっきり言ってアウトライセンスの可能性はない。
中国のファーマは発展途上のマーケットに対して
既に海外上市されている薬の導入しか考えていない。
手っ取り早くRevenueが確立できるからだ。

可能性は大きく2つある。

1つは投資だ。
投資にしたって、足下に馬鹿みたいに成長するマーケットがあるところで
停滞する日本市場への上場を期待して投資回収を狙うハズもなく
目的は日本の知財の獲得である。
獲得した知財を育てて他の国でバリューを構築することしか眼中にない。
これは今更なのでここでは触れない。

もう一つの可能性でかつメインなのは事業のオフショアリング(海外委託・外注)だ。
バイオテックでは一過性に生じるいろんな機能が沢山必要になるために
固定費を抑えたり、効率のよい経営を目的として
多くの試験や製造を外注をしまくる。
これまでに外注先はクオリティを担保できる欧米の企業が中心だった。
これまでは「中国は安いけどどうだ」という話になると
食い気味に「でもクオリティがねー」と誰かが言うのが常だった。
もはやこういう事をいう人がいるとしたら
状況を分かっていないか、良い外注先を探す能力に欠ける会社の泣き言である。

ちなみに重要なのは日本の得意な技術的なクオリティだけでなく
規制産業である医薬品開発において当局対応のために必要な
「フォーマット」のクオリティである。
欧米開発が重要な現在ではそこは日本のサービス企業には致命的な点である。
バイオサービス関連では日本ははなから世界では相手にされていない。
何も良いところがないからである。
唯一あるのは日本に海外開発薬を持ち込むときに必要な臨床試験ぐらいであって
これは国が設定した貿易障壁みたいなものだ。

上述のように
中国の会社は確かに外注のターゲットでなかった。これまでは。
しかしこれがトンデモない勘違いであったことに気がついた。
これが今回の出張の最大の衝撃である。

中国は今海外で経験を積んだ優秀な人材の帰国ラッシュが続いている。
そういう人々を海亀(Sea Turtle)と呼ぶらしい。
欧米、特にアメリカで経験を積んだ人材が
自国の爆発的な成長とアメリカの雇用の減退を背景として続々と育った浜に帰っている。

本日見学をさせてもらったとある企業は規模は2000人。
そこには300人を超えるPhDがいた。
出てくるシニアなスタッフはみんなアメリカ帰り
その過去の経歴たるや凄い。
みんな名だたるメガファーマやジェネンテック、アムジェンなどの有力バイオテック帰り。
日本であんな会社はCROどころか製薬企業だって見たことがない。
話してみても優秀、優秀。
そして凄いのが、今の会社に入って3ヶ月、半年、8ヶ月とか
怒濤の採用ラッシュが如実に見て取れる。
毎週土日の朝晩は採用のための電話会議に忙殺されるそうである。
なぜなら雇用する人材はアメリカにいるからだ。
なんという雇用創出力であろうか、オバマも跪いて教えを請いたいだろう。
意外に多いのはシリコンバレーなどUSに家族を残して単身赴任で上海なんていう人達だ。

その会社もそうだがそういった多くのバイオ企業があるのは
上海郊外の浦東新区に上海张江高科技园区(Zhangjiang Hign Technology Park)で
国内企業のみならず、海外のメガファーマの研究機関も立ち並ぶ。
そのパーク内に政府が2ベットルームで1億もするようなクラスの高級マンションを
何十棟もぶったてている。

mansion2


中国といったらやることが中途半端じゃない。
そういう破格のインセンティブを用意したりして
とにかく強力に人材をアメリカから吸収している。
そうして集めた人材は海外の開発の最前線やマネジメントでの経験を
そのまま中国企業に移植できることを知っているからだ。
そこへ持ってきて中国の有力大学で教育された優秀な修士や博士の人材を採用する。
完璧な士官と強力な戦闘員のコンビネーションだ。
アメリカで提供されているクオリティーを半分の価格で提供する。
もはや太刀打ちできる国なんて他に存在しない。
こう思うとわかりやすい、あれは中華風アメリカだ。

そういった企業の中には既にNYSEに上場をして
海外の資金を吸収して事業拡大を急速に急ぐ企業も出ている。
その提供するサービスは半端ない。
抗体のヒト化はもはやコモディティである。
PDLの特許が切れるのを良いことに
当たり前のように3-4ヶ月でヒト化抗体を提供できる。
それをサルまで有する動物試験施設で
GLPグレードのToxやDMPKまで提供する。
つまりフルサービスがそこにあるのだ。
1社で出来なくても周辺企業を繋いでクライアント側には
あたかもワンストップのようなサービスを提供する。
これがサイエンスパークの設立意義で
中国政府の頭のいいところである。
日本でもクラスタ作っているって!?
「隣は何をする人ぞ」的な草食系のクラスタなんていくら作っても無駄で
時には共食いもするけれどハンティングのためには協力を惜しまないという
肉食系のクラスタじゃなきゃ発展はできない。

さあ、こうなるとどこで付加価値を生めるかというのは問題である。
日本だけでは無い、アメリカも含めて全ての国にとっての課題だ。
現在の私の認識だと開発地域の黄金パターンは
前臨床:中国
第一相:欧米および豪州など
第二相:中国
第三相:グローバル
となっている。
第一相は今は中国のSFDAの承認プロセスが遅くて
1-2年かかってしまうので欧米が早いが
患者試験の第2相になるとリクルートが早い中国が断然いいと思われる。
特にお金と時間がないバイオテックには良いだろう。
そして当然というか日本には前臨床とブリッジング以外の臨床なんて出る幕がない。
今、日本でその分野でやられていることは
中国の方がよっぽど上手く、かつ半分以下のコストで提供できる。
残念ながら。
残された部分となるとやはりイノベーションの部分であるが
上述のように非イノベーションの部分はかなり上流まで来ている。
抗体のヒト化やキナーゼのパネルアッセイなんぞは
もはやイノベーションではなくてコモディティである。
試薬に毛が生えたぐらいの価値しか提供できない。
特許などで守られた創薬ターゲットとかしか
勝負できる領域は残っていないだろう。
これについては我々は相当頭を使って勝負できる場所を考えないと行けないだろう。

一方で、こんな中国に死角はないかというと、これは意外にあると思う。
今は海外から帰国した海亀士官と安価な戦闘員の組合せが勝利の方程式になっているが
やがては海亀の流れは止まるし
また賃金の高騰で価格競争力は薄れる。
ただし、後者は一旦サービス産業を固定化してしまえば
それまでに海外が焼け野原になって当分立ち上がれないので
国内にしか競争相手はいなくなると思われる。
重篤なのは人材のフローで
高いモティベーションを持った士官を国内で生産できる仕組みが作れなければ
海亀の回帰の流れが止まったときに衰退のスパイラルに入るだろう。
中国が混乱の時期に入ったときに
日本は出し抜けるだけの力を有していることが出来るかは疑問だ。

まあとにかく上海のあの勢いを見てしまうと
シリコンバレーですら止まって見える
ましてや日本はと言う感じである。
もし、日本がまだ中国に勝っていると思ったらその認識は改めた方が良い。
現在の姿は
上海>日本>中国
政府のトップはこの現状をせめて認識するところまではいっていて欲しいと思うが
これだけのパワーに太刀打ちする戦略を考えるのは容易なことではない。
そしてあれだけの実行力を持って産業育成ができるかというと疑問です。

その中国にあって日本にない最大の差は何かという
それは前述の海亀のようにグローバル人材である。
日本にも外資系に勤める人は数多いですが
多くは日本支社で働いている人で、グローバルの中枢で働いた経験者は少ないと思います。
中国の人材はすでにそういったところまで食い込んでいる人が多数おり
あとは本国に呼び戻すだけですが
日本にはそういった人材資産がない。
このハンデは当面いかんともしがたいところであろう。


うーん、今晩は酒を飲んで寝るしかない。


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