バイオベンチャー創業記 バイオベンチャーの企業価値算定

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バイオベンチャーの企業価値算定

  • 2006/02/06(月) 01:09:05

バイオベンチャー、特に創薬型ベンチャーの企業価値を推定するのは難しい作業です。
それはセレンディピティー(偶然性)に支配された業種だからです。
結論から言うと出てきた数字にはほとんど意味はありません。
ただ、その導出プロセスには意味があります。
導出の過程で一体どこにインパクトを与える要素があり、
そのインパクトがどの程度であるのかを理解することが重要だと考えます。




まず、企業価値算定の方法ですが
創薬型企業の場合には企業価値のほとんどがプロダクトに由来すると考えられます。
すなわち

   企業価値=Σプロダクトの現在価値ー一般管理コスト

その企業にプロダクト以外の
 1) 創薬機能あるいは技術
 2) ライセンス(インおよびアウト)のノウハウ
が蓄積されている場合には、
既存のパイプライン以外の価値上乗せの能力があることになりますが
この部分については算定の方法がケース・バイ・ケースとなるので
ここでは簡単のためにその部分を除外して考えます。




プロダクトの価値算定にはいくつかの方法がありますが、
一般的にとられている方法はいわゆるDCF(ディスカウントキャッシュフロー)法になります。
さらにこれをシナリオ別に展開して、確率係数をかけてもちいられることが多いようです。
シナリオ別の展開をしないで全体として割引率を用いる場合には25-35%がもちいられます。
この割引率は当然ターゲットとしているステージに依存しますが、
ここでは前臨床からPoCという一般的なベンチャーがターゲットとしているステージを想定しています。
レイトステージをターゲットとしている製薬企業であれば10-20%が一般的ではないでしょうか。
この数字についてはヒストリカルなスタディーが他にありますので
ここではこれ以上議論しないことにします。




こうなると価値算定の方法は一般的な企業価値算定の方法とあまり変わりがないことになりますが
算定におけるポイントは前提条件の設定にあります。
すなわち、売り上げ予測、コスト予測、成功確率をいかに現実に沿った形で推定するかです。


================= 売り上げ =================

医薬品業界の特徴の一つとして市場規模が比較的明確であることがあげられます。
市場規模は単純には

   市場規模 = 患者数 x 薬価

となるわけですが、
薬ごとに同じ疾患でもターゲットとするステージや症状が異なり
例えば喘息治療薬の場合でも構成的に症状を緩和するコントローラーと呼ばれる群と
急性の症状の押さえ込みを狙うレリーバーと呼ばれる群では
ターゲット患者数も薬価も異なるので正確には

  市場規模 = Σ(患者数 x 薬価 x シェア)

と記述するほうが正しいかもしれません。
いずれにせよ患者さんの数は豊富な統計があり、比較的容易に入手可能です。
したがってポイントは薬価とシェアをどのように算定するかになります。



ここで薬価の推定方法ですが、
これは最も難しく経験のいる部分です。
特に日本において薬価を決定するのは
最終的には厚生労働省との対話となりますので
交渉次第としか言いようがありません。
ただ、交渉はあるていど算定根拠に基づくことになりますので
競合薬の薬価、製造コスト、あるいはその新薬導入によって生まれる医療経済学的なベネフィット
が基礎となって進むと考えられます。
一方アメリカは基本的には自由価格となっており、
競合薬がない場合にはいくらでも高い薬価が付き得ることになり
一方、競合薬があれば徹底的な価格競争になります。


シェアはコモディティーのシェアとことなり
市場浸透率という似たような要素が用いられます。
これは医薬品が競合薬と必ずしも排他的な関係ではないことによります。
つまり、医薬品Aが用いられている疾患Xに新薬Bが導入された場合
AとBが「併用」されることがあるからです。
例えば抗がん剤の場合にはカクテル療法といって複数の治療薬を混ぜてつかうことがあります。
実際には混ぜるといってもちゃんぽんにするわけではなく
投薬プロトコルの上で然るべきタイミングに別々に投与されるのですが、
この場合、市場に新薬Bが入ってもAのシェアがそのままBに移行するわけではなく、
例えば患者さんの80%がAを使った上に、Bも60%の方が使い、
シェアの合計が100%を超えることになります。
ここでいう80%、60%という対象とする患者群における「利用率」を
浸透率として考えています。
この浸透率をどのように推定するかはこれまた非常に難しい議論です。
これを難しくしているのは

   「薬は効果のある患者さんにのみ投薬されるわけではない」

という現状にあります。
現在、テーラーメード医療といって、
効果のある患者さんをあるいは副作用の少ない患者さんを絞り込んで
治療を行おうという流れになっていますが、
現状においては薬は「効く可能性がある患者さん」に「医師の判断」で
投薬が行われています。
ある患者群に対して40%の効果がある治療薬であれば
おそらくその重症度などにもよりますが、50-100%に使われると考えます。
また、40%の効果も一様ではなく、
20%には非常に良く効き、20%にはまあまあ効くということもありますので
そういった「効きの分布」も重要な情報になります。
こういった点を加味しつつ、インタビューを通じてシェアを推定します。
この場合、先に「医師の判断」と書きましたが、
実は医薬品の場合、ユーザーが患者さんでありながら
意思決定者ではありません。お医者さんになります。
したがってインタビューはお医者さんにすることになるわけです。



一方で、浸透率は競合薬から独立の要素かというとそのようなことは決してなく
必ず相互作用のあるものとなります。
また、開発中の医薬品にも同じターゲットを狙っていたり、
似たようなコンパウンド(物質)で開発している競合薬からは目が離せません。
これはシェアの奪い合いになる場合もありますが
片方が先行して承認された場合に、他の競合薬が承認されないという
ゼロサムゲームになる可能性をもっています。
この場合、こういった要素はシェアよりも
むしろ成功確率の一部として扱われるほうが妥当であると考えます。



もう一つシェアに作用する要素として特許があります。
日本においてはまだジェネリック医薬品(いわゆる後発品)はあまり使われませんが
欧米では特許が切れるとジェネリック医薬品が上市されるのが一般的です。
そうするとシェアは大幅に侵食されるというように考えるのが妥当です。

================= コスト =================

これは3つの要素の中で比較的予測の容易な部分になりますが、
インパクトの大きい部分でもあります。

医薬品の開発、製造コストはそれまでに類似の医薬品がある場合には
比較的容易に推定ができますが、
新しい領域を目指す医薬品である場合にはかなり難しくなります。

まず、製造コストですが、
他の商品に比べて商品単価に占める割合が小さいので
多少のぶれは上市されれば吸収していくことはできますが
それでも1%の差は、売り上げの大きい医薬品においては金額が大きくなるので
見過ごすことができません。

ベンチャーにおける医薬品の開発の場合、
製造は自社で行われることよりもCMO(Contract Manufacturing Organization)などに
アウトソースされたり、後にパートナーとなる製薬会社が担当する場合が多いと思います。
したがって、コストの見積もりは製造原価というよりも
コストの「契約価格」と考えるほうが実地に即していると思います。
この場合、ある程度の製造原価の見積もりをして、
相手のマージンを乗せた額がどのぐらいになるかを勘案して
「努力目標として」どのぐらいの製造コストをネゴシエーションで相手に認めさせるか
ということになります。

開発コストはどの国(地域)で行うかによっても大きく異なります。
よく言われるのが、

   ヨーロッパ:アメリカ:日本 = 1 : 2 : 4

という数字で、日本はヨーロッパの4倍開発コストがかかるということです。
どの地域で開発を行うかというのは、
どの国で治験申請、ひいては承認申請をおこなうかということに依存しますので
安いからといってじゃあヨーロッパというわけにもいきません。

また、ベンチャーがCRO(Contract Research Organization)にアウトソースする場合も
どの業者に依頼するかによって価格はことなります。
当然クオリティーもことなりますので
どういった難易度の疾患に、どういったCROを使ってあるいは自社で開発をしていくかという
開発戦略に依存してコストの見積もりは変わることになります。


================= 成功確率 =================

プロダクト価値算定のための最後の大物は「成功確率」です。
算定のために一つ救いであるのは、
医薬品の開発の場合、プロジェクトがドロップするタイミングが
各ステージの終わりに比較的限られているということです。
医薬品の開発は

 研究->前臨床->治験申請->PhI->PhII->PhIII->承認

というようなステージに分類されます。
こういった比較的決まったフォーマットに従って進むのは
医薬品開発が規制型ビジネスであることに起因しています。
すなわち、当局の支持する基準、規格、プロセスに従って
然るべき結果をだし、それに基づいて開発・製造・販売ができる商品だからです。
また、プロジェクトが進行するにしたがって
開発投資が指数的に上昇するのも
ドロップするタイミングを限定するもう一つの理由です。
つまり、あるステージが終わったときに正しい判断ができなければ
大きな投資によって損失をこうむる可能性があるので
判断をせざるを得ないということです。

こういった特性から、先に書いたように
ステージごとにドロップ率を設定して
シナリオ別にDCFを作るのに理があります。
しかし、これを複雑にする問題があります。
それは多くの場合、1つのコンパウンドで
複数の疾患に対するプロジェクトが走ることが多いということです。
この場合、プロジェクトごとの成功確率が存在しますが、
その確率は互いに従属な関係であって独立ではありません。
もし片方のプロジェクトが何らかの理由で中止になった場合
もう一つのプロジェクトに波及効果を持ちます。
場合によってはもう一つも中断せざるを得なくなります。

例えばある抗体医薬Aがあったとして、
疾患Bに対する開発と疾患Cに対する開発を同時並行で走らせる場合
疾患Bに対する有効性があまり認められず中止せざるを得なくなったとします。
この時、Bにおけるデータの中で疾患Cの有効性に対する示唆が得られる場合があります。
そのときに疾患Cに対するプロジェクトの成功確率は変化することになります。
おそらくその時点になればその成功確率を「ある程度」修正することは可能でしょうが
プロジェクトを始める前にこれを推定することはかなり難しいといえます。

また先に述べたような競合状況によって
成功確率は大きく変動します。
正しい推測をするためには開発中の競合薬の成功確率まで推定する必要がありますが
1つだけならともかく複数の競合薬があった場合には
計算は複雑になり一方で推測の正しさが低下しますので
仮にやったとしても意味のない計算になってしまいます。

結果的には成功確率はみんなで頭をつき合わせてコンセンサスの数字をとる以外に
方法はありません。
ただ、あらかじめある程度リスクのある部分については情報があることが多く、
こういった点を洗い出した上で議論することには意味があると考えます。


================= 算定 =================

ここまでいろいろな情報をあつめてDCFによって算定をするわけですが
集めた数字をエクセルなどに叩き込めば数字は出てくるわけですが、
実はでてきてからが知恵の絞りどころとなります。
いくつかの因数をいじると結果は大きく変わります。
最初にも述べましたが、こういった因数のうち、
どの数字がどの程度のインパクトを持つのかを知るのが重要になります。
例えば、コストが8%のときにDCFはプラスのNPV(現在価値)を出すものの
10%ではマイナスになるのであれば、
「このプロジェクトは製造コストが一つの肝だぞ」と認識して
CMOとの交渉は不断の決意で臨む必要があります。
いわゆるトルネード分析といわれる手法によって
こういった情報を収集することが重要です。
また、それ以上にそういった情報を経営に生かしていくことが重要です。
例えば先のコストに関する情報をCMOとの交渉担当者がしっているのと
知らないのとでは交渉に対する姿勢が変わるでしょう。
開発期間の企業価値に対するインパクトを知っていれば
開発担当者も目の色を変えて開発に邁進するでしょうし、
経営者もそれが上手くいった場合に開発担当者に分配するボーナスなどの
インセンティブの設計に生かすことができるでしょう。
ここまでやって初めて企業価値の算定は「生きた情報」になるわけで、
単なる分析のための分析であれば
適当に鉛筆を舐めて作ったものとあまり変わりがないと考えます。

by H


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この記事に対するコメント

先日はお忙しい中、ありがとうございました。
ブログが更新されている!って読んでみたら、
このブログのねた、すごいですね。
ものすごく勉強になります。
じっくり読んで勉強させてもらいます。
また、ちょくちょく読みに来ますね。

  • 投稿者: きの
  • 2006/02/06(月) 23:49:47
  • [編集]

こちらこそありがとうございました。
お話をさせて頂いた中で、バイオのIRはまだ十分には
程遠いと再確認しました。
ここで少しでも貢献できればと思います。

  • 投稿者: No name
  • 2006/02/13(月) 17:09:29
  • [編集]

NPVの算出それ自体が膨大な仮定の積み重ねであり、実は算出されるNPVの数値には大した意味はない。それぞれの要素が全体に対してどの程度のインパクトを与えるかを把握するためのツールであって、それを経営にどのように活かしていくかが重要であると言う点、全くの同感です。
導き出される合計値に一喜一憂しているどこかのCEOにも読ませてあげたいものです。

  • 投稿者: わ
  • 2006/02/23(木) 17:17:24
  • [編集]

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